2011年11月15日火曜日

2011年香港区議会選挙

  2011116日、香港で区議会議員選挙が行われた。香港には地方自治体に相当する行政組織がないものの、18区の地域に分けられ、公営の文化・娯楽施設の運営やその他の地域の問題を討議するために区議会が設置されている。18の区議会の選挙区は合計で412区ある。このうち、76区で立候補者が1人だけだったため、投票が実施されず、実際の選挙は残り336区で投票が行われた。なお、区議会には選挙で選ばれる議員他に、政府が任命する議員や新界原居民(イギリス統治以前から住民)の議会組織から選出される議員もいる。
 投票率は41.4%と前回の2007年選挙の38.8%を上回った。これは立法会への区議会選出枠の増加と選出方法の変更や、民主派の内紛などで選挙戦が盛り上がったこと、左派が地域での組織固めを行い、投票を促したことが原因だといわれた。立法会への区議会選出枠については、2012年の次回選挙から1人から6人に増える。そのうち、増加分5議席については選挙で選ばれた区議会議員15人分の推薦を受けた、同じく選挙で選ばれた区議会議員のみが立候補でき、事実上、普通選挙に準じた投票によって当選者を決定するという新しい制度が導入される。このため、今回の選挙は立法会選挙の一部分でもあった。
 各政党の獲得議席数については公的な発表がない。というのも、香港では法律上の政党について定義がない。選挙への立候補に際しても所属政党および政治団体の届出は任意である。そのため、民主建港協進聯盟(民建聯)香港工会聯合会(工聯会)のように提携関係にある政党や団体では、メンバーの二重加入や移動が日常的に見られる。また、区議会では無所属議員が多く、民建連の当選者数とならぶほどである。しかし、その内実は様々で、政党や団体に所属入していることを明らかにしない、あるいは特定の党派にシンパシーを持ちながら、組織活動の参加に至らない候補者もいる。そのため、政党別獲得議席数などを正確に把握することは困難である。表1に示した数字も、参考程度のものとして理解頂きたい。以下の記述は新聞各紙の報道などをまとめたものである。
 左派の民建連工聯会が前回よりも合計で29議席増と躍進した。これは民建聯が各地で地道な組織作りと票固めを行ったためである。民建連や工聯会は左派といっても、中国本土系企業や中国政府よりの地元企業からの献金があるため、豊富な資金力を誇る。これも民建連が組織作りに注力できる背景の1つでもある。一方、民主派は議席を若干減らした。その原因は主に地域コミュニティーレベルでの組織力が不足していることだと思われる。民主派は企業献金が少ない事や、各政党に分かれているため民建連のような地域レベルでの組織作りに注力することが難しい。
 しかし、現地の報道や市民の注目は民主派の内紛に注目が集まり、これが民主派の敗因とする見方もある。急進民主派の社民連と、同党から離党した議員が結成した人民力量は2012年実施予定の立法会および行政長官選挙制度改革について政府と妥協した民主党(参考文献)を批判し、民主派の選挙協力(泛民区選聯盟)への参加を拒んだ。特に人民力量は民主党候補と同じ選挙区で多くの立候補者を「刺客」として出馬させた。しかし、人民力量は1人しか当選者を出せなかった。また、社民連も立候補者全員が落選し、急進民主派は惨敗した。これは急進民主派の所属立法会議員が暴言を吐いたり、物を投げためなどの行為を行ったために議場から退場させられたり、議場外では議員や党関係者が警察に逮捕されるような過激なパフォーマンスを繰り返すなどしたため、理性的な政治運営を望む有権者の反発を受けたためと考えられる。
 この内紛との因果関係は定かでないが、民主党、民主民生協進協会(民協)、公民党、街坊工友服務処(街工)など選挙協力に参加した他の民主派政党も、いずれも議席を減らした。また、2012年立法会選挙において区議会からの選出枠が増えるのを見込んで、現役の立法会議員である、民主党の何俊仁主席や李永達前主席、單仲偕副主席、香港職工会聯盟(職工聯)の李卓人秘書長、公民党の黎広徳副主席、民協の馮檢基、街工の梁耀忠らが出馬した(香港では異なる議会の議員を兼職任することが妨げられていない)。しかし、何俊仁、馮檢基、梁耀忠を除き、その多くが落選した。この原因について、民主派では人民力量の裏切り行為にあるとする見方が強く、民主党や民協、公民党からは選挙後に「人民力量と袂を分かつべき」、「今後は人民力量を民主派と見なさない」などの意見が出た。
ただし、投票結果を見る限り、人民力量の「刺客」が民主党候補の追い落としに成功したのは4選挙区だけである。急進民主派は過激なパフォーマンスや所属議員の議会内での言動が批判され、十分な得票を得られなかった。民主党は前回選挙と比べ12議席減であるが、実は改選前議席との比較では3議席減にとどまっている。これは、選挙改革での妥協に反対した議員が民主党から離反したためである。民主党を離反した議員は新民主同盟を結成したが、今回選挙では民主党と共に選挙協力に参加し、8議席を獲得している。この点を考慮すると、民主党が今回の選挙で大きな打撃を受けたとは言えない。
 民主派において打撃が大きかったのは公民党である。前回選挙との比較では1議席減の7議席だが、改選前議席との比較では5議席減である。原因は同党党員の弁護士が港珠澳大橋(香港とマカオ、珠海を結ぶ海上橋)の環境アセスメント結果に対する異議申し立て訴訟や、これまで法定年数居住しても香港永住権が与えられてこなかったフィリピン人家政婦の扱いを基本法違反とする訴訟に関わり、同党主席の梁家傑や黎広徳副主席もこれを支持する旨の時事評論を発表したためと言われる。特にフィリピン人家政婦に永住権を与えることには、有権者の多くが反対しており、これが公民党候補に対する投票を減らした可能性が高い。選挙後、梁家傑同党主席はダメージの拡大を避けるため、両訴訟を支持したことを謝罪する広告を新聞に掲載した。
 今回の選挙結果では、左派と民主派の資金、組織力の差が現れた。しかし、区議会では民主化など政治的な問題が焦点となりにくく、有権者との接触や地域での組織作りなどが集票のカギと言われてきた。そのため、企業献金と組合や学校関係者の組織力をもつ左派は区議会で強く、民主派には不利であると言われてきた。その意味では、大きな変化があったとは言えない。ただし、今回の選挙結果は次回の立法会選挙にも大きく影響する。擁立出来る立候補者数は各陣営が協調できるかによって変化するが、左派は立法会区議会選出枠の立候補者を10人ないし11人擁立するのに必要な区議会議員を確保したことになる。一方、民主派は4人ないし5人の擁立に必要な区議会議員しか確保できなかった(表1参照)。しかし、次回立法会選挙の区議会選出枠で直接投票が行われるのは5議席分であり、これでも民主派が支持票を取りこぼす可能性は少ない。

参考文献
拙稿「香港における民主化の『再開』—2012年行政長官、立法会選挙制度改革」『アジ研ワールド・トレンド』201010月号(No.187
1 主要政党、党派別区議会選挙当選者数と、擁立可能な立法会区議会選出枠立候補者数(人数)
当選者
擁立可能な立法会区議会選出枠立候補者数
民主派全体
83
6
泛民区選聯盟
82
6
 民主党
47
3
 民主民生協進会
15
1
 職工会連盟
0
0
 街坊工友服務処
5
0
 新民主同盟
8
0
 公民党
7
急進民主派
1
0
 社会民主連線
0
0
 人民力量
1
0
親政府派
178
11
 民主建港協進聯盟
136
9
11
 工会連合会
29
1
 自由党
9
0
 新民党
4
0
他、無所属
151
10
合計
412


出所:「泛民舊將敗陣新晉贏 學者市民盼區議員全職服務」『明報』2011118日を参照し、筆者作成。

2011年10月14日金曜日

CEPA

台湾と中国のECFAについて「ECFAの謎?」で述べたが、香港およびマカオと中国のCEPAはECFAよりも政治、法的な性格が理解されていない。最近も、某大手銀行の人がCEPAを「経済貿易緊密化協定」と訳した上で、「香港と中国とは国同士ではなく一国二制度を採用する特別な環境であることからCEPAと呼ばれている」と的外れな説明をしていた(「華南ビジネス最前線#35本土と連携した香港経済の発展」『香港ポスト』No:1343、2011年10月7日)。

何が的外れかと言えば、CEPAの政治的な特殊性を説明するのに、CEPAの正式名称を確認せず、安易に「協定」を訳語に用いたことである。CEPAは、Closer Economic Partnership Arrangement の略である。中国語では「關於建立更緊密經貿關係的安排」である。中国語でも「協定」はagreementである。本来、arrangementとagreementは異なる訳語を当てるべきことは、「ECFAの謎?」でも述べたとおりである。香港の場合は、ECFAを締結した台湾と違い、中国語と英語で異なる単語を用いるという二枚舌を使う意図はない。だからCEPAについては、中国語から訳しても、英語から訳しても「協定」という単語は出てこないはずである。

2011年9月26日月曜日

アメリカ、台湾のF-16A/Bアップグレードを決定も、F-16C/D を供与せず

2011年9月21日、アメリカ政府は台湾へ総額58.52億ドルの兵器供与を決定した。これで馬英九政権が1期のうちにアメリカから供与を受けた総額は183億ドルとなり、3期12年間続いた李登輝政権時代の162億ドルをも上回ることとなった。

そのうち、53億ドルはF-16A/B戦闘機のアップグレードおよび、同機用のミサイル、爆弾で占められる。他は、F-16戦闘機パイロットの訓練(約5億ドル)や、F-5E、経国号戦闘機やC-130輸送機の部品(5200万ドル)などである。

F-16A/B戦闘機のアップグレードの内容は、AESAレーダー(おそらくAPG-80)、ALQ-ALQ-213電子戦管理システム、ALQ-184電子妨害ポッド(82セット)、モジュール化されたコンピュータ、液晶画面で構成されたコックピット、F100-PW-229エンジンなどである。これらは、アメリカ空軍向けのF-16のアップグレードとほぼ同じ構成である。台湾のF-16A/Bはもともと、F-16C/Dに匹敵する装備を持っていたが、以上のアップグレードにより、アラブ首長国連邦のF-16E/Fという4+世代戦闘機に匹敵する性能を持つことになる。
さらに、短距離空対空ミサイル「サイドワンダー」の最新型AIM-9Xが140発および、その訓練用が56発、CBU-105クラスター爆弾クラスター爆弾64発、レーザー誘導も可能なJDAM128セットも、F-16用に売却が決まった。これで台湾は近代化著しい中国空軍に今しばらくのの間、対抗しうる手段を得たことになる。

ただし、台湾が求めていたF-16C/D戦闘機66機の供与は見送られた。このため、台湾は老朽化が進むF-5E戦闘機を更新することが出来ないことになる。F-5Eはしばしば墜落事故を起こし、パイロットだけでなく、地上の兵士まで巻き込む死亡事故も発生している。台湾がF-16戦闘機の追加供与を求めたのは、単に新しい機種を導入して戦力の近代化を図るだけでなく、安全上の理由もあった。
アメリカ政府高官が今後の戦闘機供与を否定しないと示唆しているとの報道もある。しかし、F-16は既にアメリカ空軍での調達が既に終了しており、海外向けの生産もまもなく終了する。今後は第5世代戦闘機であるF-35の生産に移るが、台湾にこのF-35が供与される可能性があるのかどうかは不明である。

2011年7月21日木曜日

法務部廉政署

2011年7月20日、台湾の法務部に廉政署が設置された。同署の設置は1980年代から議論があった。馬英九総統自身は就任以前、同署の設置には慎重な態度を示していた。しかし、馬英九政権の成立後、陳水扁前総統の汚職疑惑や裁判所、台中市警察などでの腐敗などが注目されことで、設置が推進された。同署は公務員の汚職を取り締まる役割を担う。

もともと法務部には政風司があり、廉政署はこれを改組したものである。台湾政府では各機関の中に政風組織が設けられている。廉政署はこれらを束ねつつ、その他の政府機関、市民からの通報も受けつけ、さらに独自に調査も行い、汚職の有無を監視、捜査を行う。

「司」は、日本で言えば内局にあたる。一方、「署」(および口述する調査局などの「局」)は外局にあたる。ただし、日本では内局が行うような業務を署や局が担うこともあり、必ずしも、その地位が低い訳ではない。今回の廉政署設置もむしろ、汚職対策の必要性から組織が拡充されたという意味合いがある。

廉政署はしばしば、香港の廉政公署やシンガポールの汚職捜査局と比較されやすい。台湾では汚職が深刻なことから、 世論にも同様の機関の設置を望む声が高かった。しかし、廉政署はこれらと比べて、幾つか大きな違いがある。

第一に、廉政署は独立機関ではなく、政府機構内における位置づけも高くない。香港の廉政公署は政府トップである行政長官の直属であり、シンガポールの汚職捜査局も総理府に所属する。しかし、台湾の廉政署は総統府あるいは行政院ではなく、さらにその下の法務部の一行政組織に過ぎない。

第二に、廉政署には起訴権限がない。香港の廉政公署は捜査だけでなく、独自に起訴する権限を与えられている。しかし、台湾では検察のみに起訴権限があり、廉政署には起訴権限がない。ただし、廉政署の案件を専門に扱う検察官を配置し、廉政署の駐在させることで、双方の連携と機動性を高める工夫がなされている。(シンガポールの汚職捜査局は台湾の廉政署同様、起訴権限がなく、案件を検察に引継ぐ必要がある。)

第三に、汚職捜査だけを見ても、廉政公署に一元化されていない。
台湾では監察院が政府機関や公務員の不正を糾弾する役割を担っている。監察院は法務部がある行政院(内閣)や国会にあたる立法院と並ぶ機関である。政府内における位置づけは、当然、廉政署よりも高い。とはいえ、監察院も弾劾を決議したあとは、司法院公務員懲戒委員会に送付するのみであり、起訴についても検察に促すことしか出来なかった。
また、法務部内でも廉政署以外に汚職捜査を行う組織が2つある。まず、調査局はスパイやテロの監視、摘発から、マネーロンダリングを含む経済犯罪の捜査を担っているが、汚職捜査も捜査対象としている。また、検察機構の中には最高検察署特別偵查組(特偵組)といって、日本の東京、大阪および名古屋地方検察庁にある特別捜査部に相当する組織がある。陳水扁総統に関する公費流用や汚職疑惑の捜査は、この特偵組が行っている。このように、法務部では廉政署、調査局、検察機構の三つが、それぞれ汚職捜査を行っている。

いずれにせよ、汚職捜査に関わる機構が複雑であるとの印象は否めない。また、組織論として、廉政署がその上位である総統府や五院の廉政組織まで統轄するのは、やや無理があるようにもおもわれる。廉政署駐在検察官の設置は改善にも思えるが、センシティブな案件を扱う際、廉政署と検察の見解が分かれば、この駐在検察官の指揮権が問題になるかもしれない。また、今後も最高検特偵組は存続し続けており、検察との重複ですら、解消されたわけではない。廉政署設置が汚職対策として有効に機能するか、現時点で評価することは難しい。

2011年7月5日火曜日

香港と台湾の関係正常化?

2011年7月4日、台湾の行政院大陸委員会は香港の「中華旅行社」とマカオの「台北経済文化中心」を「台北経済文化弁事処」に改称することを発表した。香港については7月15日から、マカオについては7月4日同日より、改称が実施される。なお、香港には経済部の駐在組織である「遠東貿易中心」と新聞局の「光華新聞文化中心」があるが、それぞれ「商務組」と「新聞組」として弁事処の正式な一部門とされる。
また、香港の政制及び内地事務局はあらたに台湾における駐在機構として、「経済貿易文化弁事処」を台北に2011年内に設置する方針を発表した。台北の弁事処は中国本土にあるものと同様、同局が直接管轄することになる。これまでは、台湾に香港政府の駐在組織は存在しなかった。香港貿易発展局(HKTDC)の事務所は台北にあるものの、これは香港政府を代表するものではない。ただし、以前には、香港政府の駐在機関としてHKTDCを通じて事務所を設定するという報道もあったことは事実である。
今後は、双方の駐在機構の職員には、所得への課税免除や出入国時の優先窓口利用などの便宜供与、空港の制限区域 でのVIPの出迎えを許可することなど、外交特権に準じた扱いが行われる。ちなみに双方は本件について昨年から交渉を続けてきたとしている。交渉機関は、台湾側によれば2010年11月から8ヶ月間、香港側によれば10ヶ月間と食い違っている。
 なお、マカオも2011年3月に台湾における駐在機構を設置する方針を表明している。その名称は香港に準じて「澳門経済貿易文化弁事処」となる模様である。

臺灣與香港關係新進展 - 我駐香港機構更名及功能地位提升」 大陸委員会ウェブサイト(Webcite)
臺灣與澳門關係新進展 - 我駐澳門機構更名及功能地位提升」 大陸委員会ウェブサイト(Webcite)
政制及內地事務局局長談在台設立香港經濟貿易文化辦事處」香港政府新聞公報 2011年7月4日 (webcite
港駐台經貿辦今年內成立」香港政府新聞網 2011年07月04日(webcite)
澳門在台灣設立“澳門經濟文化辦事處”」 澳門政府新聞局ウェブサイト 2011年7月4日 (webcite

2011年6月28日火曜日

香港とEFTA諸国、FTAを締結

2011年6月21日、香港はEFTA諸国とのFTAを締結した。これで、香港は中国とのCEPA、ニュージーランドとのCEPに続く3例目のFTAを締結したことになる。

EFTA(欧州自由貿易連合)はFTAの段階にある。関税同盟であり、なおかつ共通通商政策を執行するEUとは違い、EFTA自体がFTAを締結することはできない。 今回締結されたのは、EFTA参加国であるリヒテンシュタイン、スイス、ノルウェー、アイスランドと香港(Hong Kong, China)によるマルチラテラルFTAである。

今回のFTAは、CEPと同様、物品およびサービスの貿易、知的財産、投資、政府調達、競争政策などの内容を含む幅広い内容となっている。EFTA参加国のうち、スイスは香港にとって7番目の輸出先である(2010年時点、参考資料3)。一方、香港はEFTAにとって16番目に大きい貿易相手である。ほかの主要貿易相手国にEU諸国が多く、15番目までの貿易相手のうち10カ国がそうである(2009年時点、参考資料5)

本FTAの交渉は2010年1月から行われていた。ニュージーランドとのCEP交渉が2009年内に事実上 終わり、その後、主要国とのFTA交渉の予定がなく、EFTAとの交渉が開始されたのかも知れない。いずれにせよ、近隣のアジアとのFTAやASEAN+3、アメリカの参加を表明しているTPPへの対応は、まだ香港政府から明確な方針が出ていない。香港のFTA締結をめぐる政治的に敏感さは、完全に払拭されていないようである。

参考資料
  1. 香港與歐洲自由貿易聯盟國家簽訂自由貿易協定」香港政府新聞公報および香港政府新聞網 2011年6月21日
  2. 香港與歐洲自由貿易聯盟國家自由貿易協定工業貿易署
  3. 港產品出口往十個主要目的地的貨」 香港政府統計処
  4. 'EFTA States and Hong Kong, China sign Free Trade Agreement' The European Free Trade Association Official Website
  5. Fig14 EFTA’s main trading partners in merchandise trade: 2009, “This is EFTA 2011

2011年5月30日月曜日

ECFAの謎?

ECFAとは、ご存知のように台湾と中国が2010年6月に締結した自由貿易協定(FTA)である。

でも、正式名称は2つある。台湾は両岸経済合作架構協議、中国は両岸経済合作框架協議としている。
英語訳は、Economic Cooperation Framework Agreement
ちなみに、日本語に訳せば、両岸経済協力枠組協議。
もし英語から両岸経済協力枠組協定と訳しても、間違いではない。
とはいえ、ECFAの正文は中国語であること、中国語でもagreementは「協定」なのに、わざわざ「協議」としていることには、留意すべきである。

中国語の正式名称が二つあったり、中国語と英語訳が異なるのは、政治的妥協の産物である。
ただし、中国語名称が2つあっても、これらは大した違いがない。(たぶん)
問題は中国語と英語の違いである。
中国は「一つの中国」原則、つまり台湾は「中国の一部」だと言いたい。
台湾は馬英九政権といえども、そう言ってしまうと、国内世論の反発を買うので、避けたい。
むしろ、FTAはWTOに基づいて締結した協定だと言いたい。
そこで、ECFAの正文である中国語文書では協議としつつ、WTOに通報するための英語訳では「協定」としたのだ。

では普通のFTA(自由貿易協定)と「両岸協議」であるECFAは、双方の国内法令において同じものなのだろうか?
答えはNoである。

まず、台湾側の事情にそって説明しよう。
台湾でも基本的にFTAは条約である。
つまり、政府が調印し、議会(立法院)が批准する。
陳水扁政権時代に台湾と国交のある中南米諸国とのFTAでは、こうした手続がとられていた。
しかし、ECFAは台湾の法制上、条約ではなく、「両岸協議」として扱われる。
この「両岸協議」の定義は、両岸人民関係条例という法律の中に定めがある。
そのなかに色々書いてあるが、基本的には行政取極のようなものである。
しかし、立法院は両岸協議の中身が気に入らなければ、一部の条項、あるいは協議の全部を拒否することはできる。
もし、立法院が拒否しなければ、両岸協議は発効することになる。

ちなみに、条約は立法院が批准しなければ、発効しない。
立法院での審議が遅れれば、条約の発効も遅れる。
しかし、「両岸協議」の場合は、立法院の審議が遅れても、勝手に発効してしまう。
これが条約と両岸協議の決定的な違いなのである。
中国側でも、やはり台湾との両岸協議は条約として扱われていない。
中国でも条約は議会である全国人民大会の常務委員会(全人代常務委)での批准手続きが必要である。
中国が台湾と香港、マカオ以外と締結したFTA(ECFAおよびCEPA)は、条約として発効するのに批准手続きを要した。
しかし、台湾との「両岸協議」や香港、マカオとの「按排」の発効に批准は必要ない。
ちなみに、CEPAは「按排」(Arrangement)であり、香港やマカオの議会(立法会)でも批准手続きを要しないばかりではなく、拒否権もない。
立法会で説明や議論はしたものの、発効に必要な、あるいはそれを拒否するかどうか決めるための審議は行われなかった。
また、CEPAの場合、英語名称ですらarrangement を採用している以上、これを「協定」と訳してしまうのは、間違いである。
たしかに、多くの新聞や経済の専門家もCEPAの邦訳に「協定」を使っている。
彼らは政治や法律の専門家ではないから、この問題に無頓着なだけである。
いずれにせよ、間違いは間違いである。

以上が、ECFAの法的な性格についての説明である。

それにもかかわらず、ECFAは立法院で批准されたとか、批准のための審議を行ったと新聞に書いていた。
日本の新聞だけでなく、台湾の新聞でも、そういう書き方をしてしまった ようだ。
しかし、これも間違いである。
実際には、立法院においてECFAを逐条審議した結果、異議なしとなったのだ。
これは、民進党がECFAのすべての条項にクレームを付け、逐条審議に持ち込んだものの、多数議席を握る国民党が民進党の動議をその都度否決したのである。
もし、民進党が何も文句を言わなければ、国民党は「ECFAに文句ありますか?ないですね?じゃぁOK」という形にしたかったらしい。
いずれにせよ、ECFAは批准されたのではなく、拒否されなかったというべきである。

あと、新聞報道で混乱があるのが、ECFAの発効した時期だ。
2010年9月なのだろうか。それとも、2011年1月なのだろうか。
答えは、2010年9月である。
じゃぁ、2011年1月 というのは、一体なんなのか?
これは、ECFAに基づく関税譲許、要するに関税率の削減などを実施したのが2011年1月なのだ。
ECFAには、関税譲許の他にもいろいろな条項がある。これらは、2011年1月を待たずに有効となった。

次期香港行政長官は誰か?

2012年は、アメリカのオバマ大統領、中国の胡錦濤国家主席、台湾の馬英九総統など多くの国で指導者が交代する年だといわれる。国ではないが、香港でも行政長官が交代する予定である。しかし、まだ立候補者すら確定していない状態である。

香港の行政長官選挙は、選挙委員会による間接選挙で選出される。この選挙委員会も、選挙で選ばえるのだが、その投票券を持つのは香港でも1割程度しかいない という制限選挙である。さらに行政長官の選出は香港での選挙で行われるものの、その後、改めて中央政府(国務院)により任命されることになっている。これ は香港基本法第45条に定めがある。しかし、選挙で選んだのに、別の任命者がいるというのは、不思議な話に思われるだろう。「君臨すれども、統治せず」の 立憲君主制における君主や共和制といっても形式的な役割のみの大統領が任命者なら、その行為は文字通り形式的であり、選挙結果に従うことが当然に期待され る。
ところが、香港行政長官を任命するのは、行政機関としての権限を握る国務院なのである。もし、中国当局の意向にそぐわない当選者が出れば、任 命されないのか?という疑問が湧くが、その答えはわからない。ただ、確実に言えるのは、そういう疑問、いや心配を香港の人々もせざるを得ないということで ある。そのため、立候補したいとおもう政治家は、慎重に行動し、中央政府の意向や選挙委員会の多数を占める財界や左派の評判を気にせざるを得ない。これ ば、立候補者の見通しが立ちにくい原因の一つである。

とはいえ、中央政府がいっそのこと、誰を支持すれば、他の候補者は諦めてしまうだろ う。選挙委員会の委員たちも、逆らい難い。実際、初代行政長官の董建華の時はそうだった。しかし、今回はそういう動きがないわけでもないが、まだ中央政府 の意向は明確に示されていない。推測だが、香港は完全な民主化、つまり今のような制限的な選挙制度をやめ、原則としてすべての選挙を普通選挙で行うことを 目標としているが、現在は過渡期にある。しかし、今までが制限選挙で、インチキ民主主義などと言われることもあったので、具体的な議論をすると摩擦が生じ る。完全な民主化に至る前に、一度、暫定的な民主化を行う事になっている。これも2006年に民主派が反対したため一度否決され、2010年にようやく民 主派の一部である民主党が妥協して成立したが、実は民主党内部でも妥協すべきか、激しい論争も行われ、離党者も出ている。こうした緊張した雰囲気を考える と、中央政府も昔のように早々と希望の候補を明らかにしにくいのだと思われる。

では、全く見通しがないのかといえば、そうでもない。最近、范徐麗泰(リタ=ファン、女性)という元立法会主席で、全国人民代表大会の香港代表が急浮上している。彼女は上海出身で、財界・保守派に近い人物であ る。返還前には行政局非官職メンバーを務め、保守派政党である自由党の前身「啓聯資源中心」のメンバーでもあった。その意味では元親英派であるが、多くの 元親英派と同様、中国当局に接近した。返還準備過程では中国当局が設置した準備委員会およびその予備工作委員会や第一期政府推選員会を務め、董建華行政長 官を支持した。また臨時立法会主席に就任した。

このように主な経歴だけを見ると、彼女は中国当局のお覚えがめでたい親政府派の権化のよう な人物だが、実は民主派からの評判も悪くない。そもそも啓聯資源中心および自由党は財界・保守派と言っても、普通選挙の実現を前提にして活動している政党 である。その意味では、彼女は穏健は保守派といえるだろう。実際、彼女は立法会主席として可能な限り中立的な態度を採るよう努力していた。そうしたことか ら、民主党は2010年に民主化の前進のため、中国当局に談判を試みたが、真っ先に中国当局との仲介役を彼女に頼み、彼女も協力する意思を示した。


た だし、気がかりなのは彼女が2003年に香港市民の大反発にあった基本法第23条の立法化(国家安全条例)を目指すと言い始めたことだ。中国当局からすれ ば「23条の中に、国家転覆などを違法行為とすることを香港に義務づけている。いずれ、立法化を行うのは当然。」だと考えている。
また、次期行政 長官の任期は2012年から2017年である。この間に、既に決定された暫定民主化を実施し、その次のステップである普通選挙の全面実施を2017年に実 現させるという課題に取り組む必要がある。おそらく、中国当局は普通選挙の全面実施と、23条の立法化をセットで考えているのかもしれない。
しかし、幾ら、范徐麗泰の評判がよいと言っても、実際に23条の立法化に着手すれば、反対の動きが強まり、議論が白熱することは目に見えている。そのため、彼女は行政長官を1期だけ務め、すぐに引退するつもりではないのかと言う見方もある。

実 は彼女は既に65歳で、過去にガンを煩ったこともあって、健康に不安もある。また、彼女が急浮上するまで、唐英年政務司司長や梁辰英行政会議非官職メン バー・招集人が潜在的な行政長官候補とみられてきた。梁辰英は財界人だが、董建華と同様、あるいはそれ以上に中国当局と親密な人物で、返還前後から将来の 行政長官と見られてきた。それ故に、市民の人気は今ひとつである。唐英年は自由党出身で、従来、比較的民主化にも肯定的と見られてきた。しかし、2010 年の暫定的な民主化案に反対した「80後」と呼ばれる若年層に批判的な発言を繰り返すようになった。このように、彼女よりも若く、有力とされた潜在候補の 人気が振わないため、つなぎの行政長官として彼女が注目され始めたのである。

かなり危ない台湾原発の立地

日本では未だ福島第一原発事故の後始末のめどがたっていない。この事故で世界各国では、原発の是非についての議論が活発化している。日本の原発に立地につ いて海外と比較して、地震頻発地帯にあるとか、首都圏のような大都市圏から近すぎる、1個所にいくつもの原子炉が密集しているなどの批判もあるようだ。し かし、こうした事情は台湾も同じである。いや、もっと酷いかも知れない。

台湾は日本の九州ほどの国土で、原発は3個所ある。そして、現在 4番目の原発(第4原発)が完成に近いとことまでこぎ着けている。この第4原発の是非を巡っては、2000年に民進党の陳水扁政権が誕生したときに、工事 を続行するかどうかで、当時の野党国民党ともめたことを記憶している人もいるだろう。民進党は議会である立法院の多数を占めておらず、結局、陳水扁政権が 折れて、工事は続行された。

肝心の台湾の原発立地だが、工事中の第4原発を含め、3つが新北市(旧台北県)にある。そう、事実上の首都である台北の隣なのだ。特に第1と第2は、台北市と目と鼻の先にある。万が一事故が起これば、首都圏は大混乱するだろう。これはかなり危ないと言わざるを得ない。
ちなみに、残りの1つ(第3原発)は、屏東県という南端の所にある。この隣は台湾第2の都市圏、高雄市だ。ただ、第3原発から高雄市の中心部(旧高雄市)までは、少しだけ距離はあるが。。。
維基百科 臺灣發電廠列表
台灣電力 電力系統圖

当 然、台湾では福島の事故の後、原発を巡る議論に火が付いている。今の馬英九政権は基本的に原発推進派であった。一番古い第一原発についても、古い原子炉の 延長使用を考慮していたが、今回の事故を受け、これを撤回した。近いうちに、第2原発の原子炉にも耐用年数を迎えるものが出てくるが、これについても延長 使用はできないだろう。そして、完成間近の第4原発については、今後商用稼働させるかどうか、議論になっている。

馬英九政権はひとまず、 「安全性を徹底的に確認できるまでは第4原発を商用稼働させない。」と言っている。ただし、逆に考えると、安全なら稼働させたいということだろうか。いず れにせよ、来年1月には総統選挙と立法院選挙がある。もし、民進党政権が誕生すれば、再び第4原発計画の中止が俎上にのぼるのだろうか。立法院が国民党多 数なら、陳水扁政権時代の繰り返しというシナリオになる可能性が高い。民進党が立法院の多数議席を握れば、今度こそ本当に中止されるかもしれない。

た だ、既存の原発で寿命を迎える原子炉が出てくる以上、どちらが政権についても台湾の原発の発電力は低下を免れない。それは、台湾全体の発電力が減ることを 意味する。その時、完成している新型原子炉を動かさないで済むのだろうか。台湾の電力需給がどうなってるのか分らないので、何とも言えないが。。。