でも、正式名称は2つある。台湾は両岸経済合作架構協議、中国は両岸経済合作框架協議としている。
英語訳は、Economic Cooperation Framework Agreement。
ちなみに、日本語に訳せば、両岸経済協力枠組協議。
もし英語から両岸経済協力枠組協定と訳しても、間違いではない。
とはいえ、ECFAの正文は中国語であること、中国語でもagreementは「協定」なのに、わざわざ「協議」としていることには、留意すべきである。
中国語の正式名称が二つあったり、中国語と英語訳が異なるのは、政治的妥協の産物である。
ただし、中国語名称が2つあっても、これらは大した違いがない。(たぶん)
問題は中国語と英語の違いである。
中国は「一つの中国」原則、つまり台湾は「中国の一部」だと言いたい。
台湾は馬英九政権といえども、そう言ってしまうと、国内世論の反発を買うので、避けたい。
むしろ、FTAはWTOに基づいて締結した協定だと言いたい。
そこで、ECFAの正文である中国語文書では協議としつつ、WTOに通報するための英語訳では「協定」としたのだ。
では普通のFTA(自由貿易協定)と「両岸協議」であるECFAは、双方の国内法令において同じものなのだろうか?
答えはNoである。
まず、台湾側の事情にそって説明しよう。
台湾でも基本的にFTAは条約である。
つまり、政府が調印し、議会(立法院)が批准する。
陳水扁政権時代に台湾と国交のある中南米諸国とのFTAでは、こうした手続がとられていた。
しかし、ECFAは台湾の法制上、条約ではなく、「両岸協議」として扱われる。
この「両岸協議」の定義は、両岸人民関係条例という法律の中に定めがある。
そのなかに色々書いてあるが、基本的には行政取極のようなものである。
しかし、立法院は両岸協議の中身が気に入らなければ、一部の条項、あるいは協議の全部を拒否することはできる。
もし、立法院が拒否しなければ、両岸協議は発効することになる。
ちなみに、条約は立法院が批准しなければ、発効しない。
立法院での審議が遅れれば、条約の発効も遅れる。
しかし、「両岸協議」の場合は、立法院の審議が遅れても、勝手に発効してしまう。
これが条約と両岸協議の決定的な違いなのである。
中国側でも、やはり台湾との両岸協議は条約として扱われていない。
中国でも条約は議会である全国人民大会の常務委員会(全人代常務委)での批准手続きが必要である。
中国が台湾と香港、マカオ以外と締結したFTA(ECFAおよびCEPA)は、条約として発効するのに批准手続きを要した。
しかし、台湾との「両岸協議」や香港、マカオとの「按排」の発効に批准は必要ない。
ちなみに、CEPAは「按排」(Arrangement)であり、香港やマカオの議会(立法会)でも批准手続きを要しないばかりではなく、拒否権もない。
立法会で説明や議論はしたものの、発効に必要な、あるいはそれを拒否するかどうか決めるための審議は行われなかった。
また、CEPAの場合、英語名称ですらarrangement を採用している以上、これを「協定」と訳してしまうのは、間違いである。
たしかに、多くの新聞や経済の専門家もCEPAの邦訳に「協定」を使っている。
彼らは政治や法律の専門家ではないから、この問題に無頓着なだけである。
いずれにせよ、間違いは間違いである。
以上が、ECFAの法的な性格についての説明である。
それにもかかわらず、ECFAは立法院で批准されたとか、批准のための審議を行ったと新聞に書いていた。
日本の新聞だけでなく、台湾の新聞でも、そういう書き方をしてしまった ようだ。
しかし、これも間違いである。
実際には、立法院においてECFAを逐条審議した結果、異議なしとなったのだ。
これは、民進党がECFAのすべての条項にクレームを付け、逐条審議に持ち込んだものの、多数議席を握る国民党が民進党の動議をその都度否決したのである。
もし、民進党が何も文句を言わなければ、国民党は「ECFAに文句ありますか?ないですね?じゃぁOK」という形にしたかったらしい。
いずれにせよ、ECFAは批准されたのではなく、拒否されなかったというべきである。あと、新聞報道で混乱があるのが、ECFAの発効した時期だ。
2010年9月なのだろうか。それとも、2011年1月なのだろうか。
答えは、2010年9月である。
じゃぁ、2011年1月 というのは、一体なんなのか?
これは、ECFAに基づく関税譲許、要するに関税率の削減などを実施したのが2011年1月なのだ。
ECFAには、関税譲許の他にもいろいろな条項がある。これらは、2011年1月を待たずに有効となった。