2012年1月16日月曜日

台湾 2012年総統選挙、立法院選挙

  2012年1月14日、台湾の総統及び立法委員選挙が行われ、国民党の馬英九総統が再選された。ただし、馬総統の得票率は51.6%であり、前回2008 年選挙の58.45%から大きく下がった。また、立法委員についても国民党は64人の立法委員候補を当選させ、立法院での過半数議席を確保したが、前回選 挙での81議席から大きく減らした。
  一方、民進党の蔡英文候補(同党主席)席は景気の低迷や貧富の格差を上げて馬政権を批判し、一部の世論調査結果では馬総統を上回る支持を得たこともあっ た。しかし、結果は前回選挙での謝長廷候補の得票率(41.55%)を上回ったものの、馬総統の逃げ切りを許してしまった。2010年5直轄市選挙の時に 比べて、民進党の党勢は弱まった感がある。さらに、立法委員選挙の比例代表選出枠における民進党の得票率は、意外なことに2008年よりも低下した。つま り、民進党には地方政治を任せても、国政をかませることには躊躇した有権者がいたのかもしれない。
  今回の総統選挙では、従来国民党と協力関係にあった親民党から宋楚瑜同党等主席が立候補した。このため、国民党に近い支持層が割れる可能性があり、国民党 は「宋楚瑜に投票するのは蔡英文に投票するのと同じ」だと有権者に訴えるなど、その可能性を警戒した。結果は、宋楚瑜候補の得票率は事前の世論調査よりも 少なく、指標になることを恐れた有権者が馬英九政権支持に回ったものと見られる。

  選挙結果の要因は、民進党の蔡主席が政策の詳細で争うことを避けたため、馬政権に対する批判票を十分に集められなかったことが考えられる。蔡主席は一昨年 から「十年政綱」を分野ごとに、徐々に発表し、時事上の政権構想、政策綱領を有権者に示そうとした。しかし、蔡主席自身が争点に掲げた景気や格差について 具体的な解決策を示せず、従来からの政治的争点である対中国政策についても曖昧な姿勢にとどまった。
  この他にも、民進党側には、副総統候補であった蘇嘉全同党秘書長が農業用地に違法建築の住宅を所有していた問題や、農民の窮状を訴えるパンフレットで、価 格の高い甘柿の写真を掲載しつつ、安い渋柿の値段を示した問題などの失点もある。さらに、蔡主席が行政院副院長時代に自らの天下り先を確保するため、政府 ファンドによる企業への投資を承認したという疑惑も、政府(経済建設委員会)によって暴露されている。こうした激しいネガティブキャンペーンは、国民党側 にもブーメランのように跳ね返っている。農地に立てた違法な住宅については、国民党の政治家の複数が持ったことが明らかになっている。また、蔡主席の天下 り疑惑には政府側の出した証拠に不備があったなど、信憑性に疑問が残る部分もある。
  一方、馬政権は経済政策や対中国政策での成果をアピール、前回選挙同様、政策能力の高さを有権者に示そうとした。とはいえ、経済については景気回復基調に あるとの統計数字を示したが、実際には企業による雇用調整が行われていた。副総統候補でもある呉敦義行政院院長は企業による違法な「無給休暇」(解雇もし ないが、給与も支給せず、労働者に休暇を命じる措置)を讃美するような湿原を行うなど、不安を持つ有権者の実感とは異なる認識も示した。
  対中国政策については確かに中国との関係改善、特にECFA(経済協力枠組協議)の締結という成果があるものの、馬総統や側近が馬総統の訪中や中国との平 和協議の可能性に言及し、有権者の「統一交渉に入るのではないか?」という不安を煽ってしまった場面も見られた。そのため、馬総統は平和協議の前にレファ レンダムを実施すると述べ、懸念の払拭に務めた。このように、今回の選挙結果から、馬政権の対中国政策が支持されたと断定することはできない。2期目には 投資協定やECFA継続交渉など残された課題の処理が課題として残され、1期目ほど華々しい成果をあげることは難しい。台湾の有権者や野党民進党は中国と の関係改善が国際組織への参加や主要国とのFTA締結のような台湾の国際空間の拡大につながるのか注目するだろう。つまり、1992年コンセンサスが馬政 権の言うとおり、「一つの中国、各自が表現(解釈)」であり、国際社会への参加においても通用するものなのか試されることになる。しかし、中国は平和協議 のように馬政権が避けたいと考えるテーマを打ち出してくる可能性もある。馬政権の再選は必ずしも台湾と中国の関係が順風満帆に進むことを保証しないだろ う。
 いずれにせよ、馬英九政権に積極的な勝因を求めるのは難しい。むしろ、国民党にかわる政権の受け皿であることを有権者に十分に政策能力を示せなかったという、民進党側の敗因の方が大きいのではないか。